28/05/2026
戦争は、人々の心身や愛着のある土地に取り返しのつかない破壊をもたらします。『戦場のベーカリー 戦時下のウクライナでパンを焼く』(フェリシティ・スペクター/著、藤沢町子・齋藤匠/訳、2026年3月原書房発行)を読んで、戦時下という極限状況においても人はとにかく食べていかねばならないということに、あらためて思いを巡らせました。
この本は、TVジャーナリストの著者が、仕事のかたわら戦時下のウクライナを度々訪れ、「ベイク・フォー・ウクライナ」をはじめとする食料支援活動に関わりながら、現地の食を綴ったものです。ロシアの全面侵攻から4年になりますが、こういう現地の人々の食事情はなかなか伝わってきません。とても貴重なレポートとなっています。
世界の半分のために小麦を育てる国ウクライナは、パン文化の国。この本を読みながら、ウクライナにおけるパンは、日本の米やごはん、おにぎりに匹敵する精神を支える食べ物だと感じました。避難した人へ、インフラの絶たれた町に留まっている人へ、前線の兵士へ。警報と爆撃の音が断続的に響く中、身の危険を顧みずパンを焼き、手渡すボランティア活動。移動式ベーカリー、地下のキッチン、厨房設備のあるフード・トレイン…。過酷な状況下で食料を供給するために凝らされた工夫、忍耐には目を見張るものがあります。そして利他の心で動く人たちには、否応なしに心をつかまれてしまいます。
また、支援者の「支援を受ける人が支援に慣れて頼りきってしまわないように、週1、2回は調理ずみの食事ではなく食材セットを渡して、自分で調理してもらう」という言葉にハッとさせられました。故郷から持ってきたサワー種からパンを焼く女性の「パンを焼くという行為が癒しであり、日常に戻るための手段」という言葉も印象的でした。
この本で紹介される、サワードゥ・ブレッドをはじめとする多種多様なパンとウクライナ料理はどれも本当においしそう。口絵の写真を見ながら、あれもこれも食べてみたいと思わされます。巻末には8つのウクライナ料理のレシピも付いています。
今日も食料を届けているであろう人々の安全を願って止みません。そしてとにかく、1日も早く和平が訪れますように。(m.t.)
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