掛川npo村プロジェクト

掛川npo村プロジェクト 掛川NPO村プロジェクトは、NPO法人、市民活動団体で構成される。各団体は、資金調達・活動場所・人材確保・マネジメント能力の不足等の課題を抱えている。それらの課題を解決するために、7団体が協働して自立した運営を実現していくことを目指している。

能はこんなに面白い・その四 「船弁慶」後場    静御前への思慕を振り払い、義経主従は船出していく。『地謡   えいやえいやと夕汐に。 つれて船をぞ。 出しにける。』 舞台では“イヤ― ヨ―イ”と掛け声とともに、太鼓や大鼓・小鼓をお囃子方が...
21/09/2024

能はこんなに面白い・その四 「船弁慶」後場   

 静御前への思慕を振り払い、義経主従は船出していく。

『地謡 
  えいやえいやと夕汐に。 つれて船をぞ。 出しにける。』

 舞台では“イヤ― ヨ―イ”と掛け声とともに、太鼓や大鼓・小鼓をお囃子方が激しく打ち鳴らす。 
 それを合図に海は荒れ、義経主従の前に怨霊と化した知盛が現れ、主従に襲い掛かる。 
 知盛は、なんとも無念な形相で瞋恚の焔をたぎらせ、義経を海に引き込もと立ち回る。
 
その時 ”あわわ  ”
 船をこいでいたヨシコは目覚めた。

“なんだよ 寝てたのか“クニオは冷ややかにつぶやく。

“いや ちょっと瞑目していただけ”
 とあくまで強がる、しかし、明らかに動揺し心が波立っている。
 いつもやり込められているクニオは、ここぞとばかりに責め立てる。

“船出の場面は見てないんだね!”とがめる口調で詰問すると。
“見ていました   薄目を開けてみてました!”と否定する。

 船を漕いでいたのに、船を漕ぎだす様を見ていない ……  船が漕ぎだしたのに、船を漕いでいない ……  
 何やら禅問答の趣を呈する事態になってきた。

歯切れの悪い禅問答を繰り返す両者の顔には、仄かにいら立ちが見て取れる。

 クニオは大事なことを忘れている、何事も浜を洗う波のごとく「押しては返す」の繰り返しが肝要、心の機微を持てあそぶことが勝利の近道。

    しだいに二人の間の空気が張り詰める。

 舞台では源平の攻防が、見所(*1)ではヨシコとクニオの攻防が繰り広げられている、今日の船弁慶は見どころが多い。

『地謡 
  又義経をも海に沈めんと。 夕波に浮かめる長刀取り直し 
  巴波の紋あたりを払う。 うしほを蹴立て悪風を吹きかけ眼 
  もくらみ。
  心も乱れて。 前後を忘ずる。 ばかりなり。』

 その頃、海上では知盛が義経を海に引きずり込もうと、まさに鬼の形相で襲い掛かる。
 そうはさせるものかと弁慶は、打物業(*2)では適うまいと、数珠を押しもんで一心不乱に祈る祈る。
 
 知盛と弁慶の攻防はさらに激しさを増し海もあれ狂う、しかし弁慶の法力すさまじく、ついに知盛は退散していく。

“さすが弁慶、身の危険も顧みず、悪霊を退散させたわね“
 ヨシコが弁慶の活躍を讃える。

“京の五条の橋の上にて、主従を誓って以来の戦友だからね”

“やはり弁慶の法力をもってすれば、どんな天魔鬼神とて適わないってことかな”
 延暦寺・西塔(*3)の傍らに住んだと言われている天下無双の弁慶に思いをはせる。

『地謡           前半略
   弁慶船子に力をあわせ。お舟を漕ぎのけ汀に寄すればなほ
   怨霊はしたひ来たるを。
   追っ払ひ祈りのけ又引く汐にゆられ流れ。 
   又引く汐にゆられ流れ。
   跡しら波とぞ。 なりにける。』

船弁慶もこうして幕を閉じた。

━思い起こせば

 平家の滅亡は義経一人によってなされたと言っていいだろう。しかし、船弁慶では義経への怨念が、平氏の激しい焔が、知盛の怒りが思いのほか燃えたぎっていない、知盛に怒りの焔は燃えたぎっていない。

 瞋恚の焔を燃やすにしても、知盛の亡霊は品と気高さがあるように思えるのは何故だろう。
 我が世の春をいたずらに過ごし、「平氏にあらずんば人にあらず」と驕った平氏の行いに対して、慚愧に耐えない心情が現れて、そうさせるのか。

“さすが平家の御曹司、気高さと品のある亡霊だったね”
 しんみりとした口調のクニオ。

“えー そうね”
 いつもなら同じ思いを描いていても、先に言われた口惜しさから、天邪鬼な返事になることが多いのに、殊勝にも同意するヨシコ。

 壇ノ浦の合戦で味方の裏切りにあい、義経に滅ぼされた不運の将・知盛の心情がヨシコの心に投影したかのようだ。 

 知盛の心情に、知盛の心情に、心を寄せるばかりなり。

 平家の栄華も義経主従の活躍も、うたかたのはかない夢の如く消えていく、無常観の漂う能であった。

━余韻が残るロビー

 日は西に傾きつつある、ガラス窓に広がる眼下の相模湾はどこまでも、ただただ青く静かだ。

(*1)観客席
(*2)刀剣、薙刀などで戦うこと。またその技術。
(*3)延暦寺の僧房は、東塔、西塔、横川に分かれて分置されている。

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能はこんなに面白い・その三 「船弁慶」前場能は「わかるのではなく感じるもの」「演者と同期して、身体的共感が高まり演者と見る側が一体となった時、はじめて唯一無二の作品になる  いつでも発見がある  だから面白い」というわけだ。能の謡をちゃんと...
29/08/2024

能はこんなに面白い・その三 「船弁慶」前場

能は「わかるのではなく感じるもの」

「演者と同期して、身体的共感が高まり演者と見る側が一体となった時、はじめて唯一無二の作品になる  いつでも発見がある  だから面白い」というわけだ。
能の謡をちゃんと身に着けたら、故事来歴から文学まであらゆる知識を身に着けられる。          「能はこんなに面白い! 観世清和+内田樹 小学館」より

さあ! 古典を片手に、身体的共感を求めて、能を感じよう。

源義経(九郎判官)は今日でも人気のあるヒーローの一人だろう。
能で登場する義経は、どうした訳かほとんど(知っている限り)子方(*1)として登場する。
過日、MOA能楽堂で鑑賞した「船弁慶」の義経も子方だ。 

━MOA能楽堂

MOA能楽堂のホワイエは、船弁慶(宝生流)を楽しもうと集まった観客でムンムンしている、ヨシコもクニオもその渦中の人、少々上気した気分で開場を待っている。

船弁慶(宝生流) 前場
義経主従が都落ちして西国に下ろうと大物浦に着く、ここで同道した静は、弁慶の諫言もあって都に帰るよう諭される、悲願にくれる静御前、別離の酒宴で別れを悲しみつつ舞を舞い、一行の船出を見送る。
後場
やがて、船が沖合にさしかかると、にわかに海が荒れ波濤が逆巻く中に、不思議や平家一門の亡霊(平知盛)が現れる、知盛の亡霊は大薙刀を振り回して義経に斬りかかる、弁慶は数珠を押しもんで祈り退け、亡霊は次第に遠ざけられて引き汐と共に消えていく。              
              
“船弁慶って意外性のある曲なんだぜ、知ってる?”
 小耳にはさんだ話をさも得意げに話すクニオ。

ヨシコはどうせいつもの知ったかぶりだろうと
“へ― そうですか”と軽くいなす。

冷ややかなヨシコの態度に、少々不満げな表情を浮かべながら
“前シテ(*1)と後シテが同一人物ではないって珍しいと思わない?”

能は前場と後場でシテと呼ばれる主役が別人物を演ずる例はあまりない。 
船弁慶では主役のシテが、前場では静御前を、後場では知盛と別人格を演じる、対照的な演技を一人の演者演じさせる能は珍しいようだ。

義経を慕う静御前なる美しい女性が舞う優美な前場から、亡霊と化した知盛が義経に復讐しようと襲い掛かる激しく壮烈な後場へと劇的に変わる、この意外性のあるドラマチックな舞台構成が素晴らしい。

大物浦に着くや、女人連れは足手まといとばかりに、静御前に帰れと諭す弁慶。

シテ(静) これは思ひもよらぬ仰せかな。何く迄も御共とこそ思ひしに。
      頼みても頼みすくなき人の心。あら何ともなや候。
 
“連れて行けばいいのに、すでに儚い命なんだから”
“イヤイヤ、ここは、恋仲より逃げ延びて再起を目指す  さすが弁慶とほめるべきではないかな”

“本当の強さは、猛々しさでなくてしなやかなこと、慈悲の心よ”
“いやいや、源平の戦いに慈悲は無用、うたかたのごとく消えいるのが能なのさ“

“賢しいことを言うわね!” 
“それが能の美意識なの!”

 さらに口を挟もうとしたその時ピーンと天女がヨシコに舞い降りた。
“ハーンわかったわ  ビンゴ!”
“何がわかったの”と不審げな表情で上目使いにヨシコを見やる。

ヨシコは少々上気した笑い浮かべ、勿体ぶって。
“作者は布石を打っているわね、いいよく聞いてね  ”
“「静か」を拒めば海は「荒れる」ってことじゃない“(*2)

静かを拒めば海が荒れるとは 奇妙なことを言うなといぶかるクニオ。

━しずか  いなくなる!  うみ  あれるか?  
   
確かに後場では知盛の怨念すさまじく海は激しく荒れる。
能にそんな「言葉遊び」的な趣向をしのばせるのかと、納得出来ずにいる。

━しかし、まてよ!   
“静かを拒めば海は荒れる、道理の因果を語っているのかもしれないな”と思い直す。
“人の道を諭しているのか?”

“だとすれば   ウーム   ありうるかも”  
“いやいや そんなはずはない、単にあざとい作為ではないか “

悩むクニオを横目に
“前場の静御前の登場はこの後場への布石ね! だから静を帰す演出が必要だったのよ”ヨシコは、今日はいい仕事をしたとばかりに、淡く微笑む。

舞台では静御前の別離の宴が始まろうとしている。
子方(義経) 静に酒を勧め候へ
ワキ(弁慶) 畏って候。げにげにこれは御門出の。行末千代ぞと菊の盃。
       静にこそ勧めけれ。
 
見所(*3)のクニオはヨシコの説に、一瞬たりとも納得してしまった自分に …………
口惜しさをにじませ佇むばかり 口惜しさをにじませ 佇むばかり。

静御前は別れを悲しみつつ、優美な中ノ舞を舞う。 

シテ その時静は立ち上がり。時の調子を取りあへず。戸口の郵船は。風静まつて出ず。
地謡 袖打ち振るも。恥かしや。
シテ 立ち舞ふべくもあらぬ身の。
 中ノ舞
シテ ただ頼め。しめぢが原の。さしも草。
地謡 我が世の中に。あらん限りは。
中略
シテ 静は泣く泣く。
地謡 烏帽子直垂脱ぎ捨てて。涙に咽ぶ御お別れ。
見る目も哀れなりけり 見る目も哀れなりけり。 
                 
中入り
                              To be continued

(*1)シテ方にはシテ(主役)、シテツレ(準主役)、トモ(シテの同伴者)、子方(子役、地謡(合唱団)、後見(進行補助役)などの役があり能に出演する。
(*2)「静か」を拒めば海は「荒れる」は『「能の平家物語」秦亘平(文)・堀上謙(写真)朝日ソノラマ鍵』船弁慶の解説ヒントに創作した。
(*3)観客席
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嫁が君・若冲が描く鼠の世界     ━京の都から南へ一里ほど下った山里に石峰寺という黄檗宗の寺がある。京に近いだけあって、山里とはいえ雅さが漂っている、その風情が気にいったのか、このころ伊藤若冲は門前の庵に隠棲していた。“鶏も書き尽くした ...
26/07/2024

嫁が君・若冲が描く鼠の世界     

━京の都から南へ一里ほど下った山里に石峰寺という黄檗宗の寺がある。
京に近いだけあって、山里とはいえ雅さが漂っている、その風情が気にいったのか、このころ伊藤若冲は門前の庵に隠棲していた。

“鶏も書き尽くした   ”と若冲は思案気の様子。
“絵は心を解き放つのが何より  正月でもあるし、ちょっとおどけてみようか  フ
フッ  ”
何やら面白い考えが浮かんだようだ、いそいそと準備に取り掛かる若冲。
 

━静岡市美術館はざわついていた。
「琳派と若冲、ときめきの日本美術」と銘打った京都・細見美術館展は盛況だ。
人気の琳派や若冲の作品が多数展示されている、その絵の前には人の渦が幾重にもできていた。

 ヨシコとクニオは、その渦から少々離れた場所にある若冲作「鼠婚礼図」の前で話し込んでいる。

“モチーフが面白いわね 鼠って”
なるほど若冲といえば鶏が馴染み深い、実際、今回の美術展でも「鶏図押絵貼屏風」や「雪中雄鶏図」など鶏をモチーフとした作品は、どれも写実的ではあるが不思議な気品に満ちて見ごたえたっぷりだ。

“それも婚礼図だぜ!”とおどけて見せるクニオ。

まさに「嫁が君」(*1)を彷彿させてしまう。
松尾芭蕉の俳句にこんな句がある。
「餅花や かざしに插せる 嫁が君」(*2)
 
“正月三が日の平和な一時を描いたのかな?“

三方を運ぶ鼠、裃姿の鼠は媒酌人だろうか …… ご相伴に預かろうとしているのか、慌ててやってくる鼠とすでに酔っているのか引きずられながらも嬉しそうな鼠、大黒柱?に絡みつく鼠 …… などなど宴会の真っ最中だ。

“鼠の表情が愛らしいわね フフフッ ”ヨシコも微笑む。

江戸時代も中期以降になると庶民的な美術が興隆し始める、絵師の階層も大きく広がり、遊び心あふれる作品も多くみられるなど百花繚乱の状況を呈していた。

京都画壇も隆盛を極めていた、その中心をなす絵師が若冲、応挙、蕪村、大雅、蕭白らであった。

 美術史家の辻惟雄氏は
“驚いたことに彼らは歩いて5分から数十分のところに住んでいた”と浮き立つ心を抑えながら楽しげに述べている。
“路で会えば「おはようさん」とか「ほなさいなら」とか挨拶をしていたのだろうか”
ちょっとほっこりする。
 
“この作品は若冲の意外な一面を物語っているよね”とヨシコ。

若冲といえば生涯を妻帯せず絵に打ち込んだことはよく知られている、相国寺や黄檗宗の僧侶と深い交流があり、寺院に寄贈した作品も多く、信仰の熱い絵師とするイメージの面からすると「鼠婚礼図」は少々意外だ。
 
鼠は害獣ではあるが大黒様のお使いであることが知られているし、辻氏が指摘するように「このころ京都は、江戸と比べ自由な雰囲気に満ちていて、これまでの約束事に縛られない自由な発想と表現が可能だった  」という事情が若冲をして遊び心のある絵を描かせた理由かもしれない。

“でも何より秀逸なのはこの構図だでよ!  鼠・鼠  斜め線  余白  鼠  って”
ヨシコは構図の奇抜さ面白さに気付く。
左上と右下という斜めの構成も面白い。

“余白を真ん中にして、両端にモチーフを置くって構図の作品は結構あるんじゃないかな?”

 等伯の「松林図屏風」や蕪村の「紫陽花にホトトギス」とか宗達の「風神雷神図屏風」とか、どれも傑作だ。

“イヤイヤ それらの作品の余白は大気や湿気なのに、若冲の余白は違うよね!”
“きっと床だと思うんだ!板の間か土間かわからないけど”

“この余白は磁場とも言えないかな? 鼠たちが互いに引き合う力を感じるんだけど  ”

しばらくの沈黙の後、しびれを切らしたかのようにクニオが

“なるほどね  確かに框のような斜め線から迎え出ようとして飛び出している鼠がそれを暗示しているのかもしれないね”

“多義的なのよ! きっとそうよ  斜め線と余白が全体に活き活きとした動きや躍動感を生み出しているのね”
 とつぶやくヨシコ。

余白は「想像力の働きで完成させる」とは岡倉天心の洞察。

“ウーん 想像力で埋めるしかないね!”と得心したかのように互いに頷く。

想像は心の内に幾重にも果てしなく広がっていることを二人は感じていた。
 

━石峰寺門前の庵
 
今日も里の子供たちの歓声が響き渡っている。

“オイラも鼠を書いてみたーい     ”
オイラもワタシもと子供たちが鼠の絵の廻りに集まってきた。

“墨をすってみるかい   ”と硯と墨を取り出す若冲の顔は滋味に満ちている。

子供たちのみならず、動植物にも慈愛をそそぐ若冲
“山 川 草 木 悉 皆 成 仏   山 川 草 木 悉 皆 成 仏 ”
そこには穏やかな山里が広がっている。

*1)日頃、目の敵の鼠も正月三が日は嫁が君と呼んで丁重にもてなす。鼠はコメを食う害獣だが、大黒柱の使いでもある。
そこで一年のうち362日は鼠と闘う、年の初めの三日間だけ大黒柱の嫁とし平和を結ぶ。   日本人の暦 長谷川櫂 筑摩選書

*2)「餅花や かざしに插せる 嫁が君」
「餅花」は繭玉<まゆだま>とも言い、木の枝に紅白の小さい餅の団子を付けた飾りもの、穀物の形に擬してその年の稔への義予祝をなし、正月に飾りたてる。
その餅花のあたりへ出てきた鼠を、餅花をかざしにして髪に押し立てたように見立てたものである、その姿は、「嫁が君」と言われるとおりなかなかかわいらしい。
  芭蕉全発句 山本健吉 講談社学術文庫

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月に傾(かぶ)く             古来、風流はしばしば風流過差と呼ばれた、松岡正剛氏によれば、過差とは過剰のこと、そして過剰な意図を「傾(かぶ)く」と呼び、その担い手を「かぶきもの」或いは「パサラ」と呼んだそうだ、いわゆる「傾く」の...
19/05/2024

月に傾(かぶ)く            

 古来、風流はしばしば風流過差と呼ばれた、松岡正剛氏によれば、過差とは過剰のこと、そして過剰な意図を「傾(かぶ)く」と呼び、その担い手を「かぶきもの」或いは「パサラ」と呼んだそうだ、いわゆる「傾く」のことである。
  
 面白いことに、この過差=物狂いは人々の関心と好奇心を煽るには、もってこいのものだった、歌舞伎は「傾く」を起源としていることからもそれがわかる。

 いや、しかし ……
“日本人は昔からいろんなモノやコトに傾いてきたな”
               とつぶやくクニオ
ヨシコは、我が意を得たりとばかりと
“富士に桜、茶の湯にそして月に!   着物に傾いた作家(*1)もいたわよ!”
 
月に傾いた人と言えば明恵上人(*2)だろう。
月の歌人と呼ばれるに至った歌がこれだ。

「あかあかや あかあかあかや あかあかや あかあかあかや あかあかや月」
月への傾き様が絶妙だ。

近年では最後の浮世絵師と呼ばれた月岡芳年(*3)が思い浮かぶ。
 月岡芳年は、浮世絵が精彩と物語を生み出す魅力に欠け、庶民の支持を失いつつあった幕末から明治にかけて生きた浮世絵師である。

確かに芳年は最後の浮世絵師とか血まみれ芳年と呼ばれるが、クニオは“「傾き絵師」と呼びたい”と思っている。

 その芳年の最晩年の傑作に月に傾いた「月百姿(つきのひゃくし)」シリーズがある。

          
4月のある日、二人は東京は太田記念美術館(*4)にあった。
太田記念美術館では「月百姿」シリーズの展覧会が開催されていた。
  
ヨシコ
“ススキの枯野に佇む老狐か〜 哀感が漂う作品ね!”

ススキの枯野に佇む老狐を描いた『吼噦(こんかい)』に目をやりながらささやく。

『吼噦』は、猟師に多くの仲間の狐を殺された老狐が、狩りをやめさせようと奔走するその帰り漁師の仕掛けた罠にかかってしまう物語、狂言の「釣狐」をもとに描かれたと言われている。

ジッと『吼噦』凝視するクニオ

“寂寥感のある風景が狐の心情を物語っているね”
芳年の無常観が色濃く出た作品だなっとクニオは思った。

“ところで、狐の顔に愛嬌を感じない?”とヨシコに問われ
“そうだな  化けたのが見破られちゃったって顔かもね!”
  と応じる。
確かに後ろを振り返る狐の顔には「しまったやってもうた」感が見える。

なおも魅入る二人

“枯野のススキに 有明の月 ……”と口ずさむクニオをよく見ると、狐のしっぽが ……  (;´゚∀゚`)っ)

『源氏夕顔巻』の前で足を止めるヨシコ

“透明感がなんとも素敵!”
クニオ
“空(うつ)と現(うつつ)を行ったり来たり …… まさに …… 夢うつつ  ”

 源氏物語・夕顔の巻で光源氏と一夜を過ごした夕顔が、六条御息所の嫉妬に妬かれ命を落とし、成仏できずこの世にあらわれた姿を描いた『源氏夕顔巻』

 能の複式夢玄能を絵画にしたら如何にと思わせる作品だ。

クニオ
“気品さえ感じるね、芳年の画力の賜物かな”
ヨシコ
“芳年の画力もだけど、摺師、彫師の腕を讃えずにはいられないわよ”

深くうなずき合う二人。

クニオ
“おおー  大胆な構図やなぁ~  ”

玉兎とは中国の伝説にある月で仙薬を搗いているとされる兎、『玉兎・孫悟空』の大胆な構図構成が人を惹きつける。

 『玉兎・孫悟空』は水墨山水画の遠近法である三遠、即ち平遠・高遠・深遠の三つの視点を持っているようにも見える。

クニオ
“新しい境地の作品と言えるんじゃないだろうか”
ヨシコ
“うんちくはいりません  兎がなんとも愛らしいからいいのよ”
クニオ
“ァハハ・・ “

「月百姿の画題は和漢の物語、詩歌、謡曲など多種多様であるが、制作にあたり多岐にわたる資料を渉猟している、安易な作画で済ますことをせず、より完全な造形を目指した」
  と、芳年にほれ込み、その魅力を発信し続けている岩切友理子氏は賛辞を惜しまない。

 まさに月百姿は「傾く芳年」の面目躍如といったと作品群だ。

(*1)泉鏡花 
明治から昭和にかけて活躍した小説家、「幻想小説」の礎を築いた作家として知られる。
(*2)明恵上人 
鎌倉時代の華厳宗の僧、京都の栂尾山に高山寺を再興し、日本最古の茶園を作った。茶の精神を伝えたとされる。
(*3) 奇想の浮世絵師と呼ばれた歌川国芳の弟子、二人は斬新な構図や画風で得意とした浮世絵師
(*4)太田記念美術館
浮世絵専門の美術館、浮世絵コレクションとしては世界有数と言える。

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鬼卵・夢路     2024 4/5“頼もう   ” 店先から声をかける!店は掛川城からほど近く、今では面影もないが、かつては掛川藩城下の一角にあたる場所だ。“頼もう   ”クニオは再度、店の奥に声をかける。 店主“どちら様でしょう ”中年...
05/04/2024

鬼卵・夢路     2024 4/5

“頼もう   ” 店先から声をかける!
店は掛川城からほど近く、今では面影もないが、かつては掛川藩城下の一角にあたる場所だ。
“頼もう   ”
クニオは再度、店の奥に声をかける。 

店主
“どちら様でしょう ”
中年の目鼻立ちのすっきりした温容の顔立ちの店主奥から顔を出した。
店主
“書画、軸をご所望で   ”
クニオ
“いや、こちらに鬼卵の書画があると聞き及んだので ……   ”
店主
“さようでございますか ……  ”
思案顔の店主 ……  少々、間をおいて
“ではどうぞこちらへ  ”と二階に案内される。

鬼卵とは日坂宿を終の住処とした栗杖亭鬼卵(りつじょうていきらん)と名乗る自由人にして戯作者・狂歌師・俳人のことだ。
鬼卵は文人墨客で身を立てたいというアニマルスピリット(衝動)に駆られて武士を辞し狂歌・画・和歌・俳諧にいそしみ、その半生を自分の道を探したずねて漂泊を友とした。
旅では、妻や養女が先逝くなどの不遇の暮らしに重苦しさを漂わせたと聞く。

店主
“このところ、鬼卵を尋ねていらっしゃるお客様が増えましてな  ”
案内された先に鬼卵作の漢画と俳画一対の水墨画の掛軸が掛けられており、先客が熱心に軸を観ている。

 濃厚な少々暗めな彩色トーンのアクの強そうな人物表現の軸はいかにも漢画だなと思いつつ、隣の俳画一対の軸に目を移す。

“こちらの方が好まれるかもしれませんな”と店主が水墨画の軸を指さす。
俳人と思わしき人物の簡潔な表現は与謝蕪村風ともいえようか。

店主
“後姿の俳人は芭蕉だと推察しております”
クニオ
“芭蕉のような漂泊の旅にあこがれたいたのでしょうか”
芭蕉の姿(後姿)を追い求めたいと思い、旅路で生涯を終えようと思ったのか。
しかし、齢60歳に近くして日坂に隠棲することになる、そのわけを知りたくなった。
無言で軸を見つめるクニオ

店主
“こちらも逸品といえましょう”
と大ぶりの軸を持ち出し掛ける、椿椿山の着彩した山水画だ。
まだ暑さの残る晩夏の昼下がりだろうか、秋の七草が咲く景にたおやかな趣を感じさせる。
 さらに目を凝らすクニオ   
クニオ
“おやおや、昆虫も戯れていますね!  ”
 草花も昆虫も深く観察された様子で、命への慈しみが感じられる …… 目を凝らすほどに発見がある ……  品のよい作品だと思った。
店主
“そうでしょう、私どもの商いの醍醐味は、歴史に埋もれてしまった逸品を発見し、喜びを分かち合うことでございます”
芸術を通じて創造性や美しさ楽しむ=精神的栄養を分かちあいましょうと語る店主に、いよいよ何者だろうと関心を抱くクニオ。

 江戸時代は、参勤交代によって街道は整備され、それに伴い江戸や京の文化の伝播が始まり、諸国間も交流が盛んになる。
時を同じくして、文人と呼ばれ総じて在野の知識人が台頭し庶民的な絵画が興隆する。
諸国に伝播した文化の芽は、互いに刺激し合い華開いていった。
掛川は藩主太田公の学問や文化の奨励を受け、遠江における学芸文化の府となっていく、学問や書画においては文人墨客が集い切磋琢磨し、商いにおいては、義をもって利を追求した商人たちが切磋琢磨した。

店主
“松風の存在がおおきゅうございますな”
松風とは、自らも画人でありながら「遠州第一の好事家」と称され、裕福な財力で画人たちを側面から援助した風流人の大庭松風のことだ(* )
店主
“鬼卵が日坂宿を終の住処と決めたのも、松風の招きかもしれませんな”
クニオ
“だとする愉快ですね!”
当時、すでに掛川は各地の文人墨客を受け入れる土壌が育ち、藩主、武家、町人を問わず学問や文化を面白がり、精神的栄養を分かち合う雰囲気があったのだろう。
クニオ
“鬼卵にはそんな気風が肌に合ったんでしょうか!“
店主
“松風ともども、面白がったかもしれませんな”

鬼卵や松風に思いをはせながらも店主は少々のいら立ちを隠せない様子。
先人が出会った学問や文化、それを面白がり、その瞬間の充実した人生を楽しむ、そんな気風、精神風土が埋もれてしまった状況にやるせない思いを抱いているようだ。

店主
“アニマルスピリット(衝動)を面白がる、闊達にして愉快な文人達、義をよりどころとした商人 ……  次の世代に伝えていかないといけません“
 
こういった文化遺産はただ放っておけば自然と残っていくわけではない、今、生きる人々の残す努力、伝える意思があって始めて、我々が精神的栄養を享受し豊かさが実感できるのだなと 店主の思いを聞きながら思った。
 
クニオ
“風月を愛で 人生を楽しむ …… か”と鬼卵の言葉を思い出す。(*1)

 この文は『「きらん風月」:永井紗耶子著 (株)講談社』をヒントに構成しました。
永井氏はこの本を出版するにあたり鬼卵のような「型にはまらない人が、生きられる居場所が江戸時代にもあった」と述べています、そんな鬼卵が日坂を居場所とし終の住処と定めたわけを探りたいと思ったことが始まりです。

参考資料 
(*1)「きらん風月」 p306 永井紗耶子著 (株)講談社
・栗杖亭鬼卵の生涯  岸 得蔵
・東海道人物志・解題 「遠江」第7号・浜松史跡調査顕彰会編 神谷昌志

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28/09/2019

<残念なお知らせ>
「日坂本陣あそび広場」が天候不順のために中止になりました。
秋空の下で 遊びたい!と楽しみにしていただいていた方には とても残念です。

緊急なおしらせ9月29日開催の「日坂本陣あそびの広場」に出場予定していた「トランポリン」は諸般の事情により取りやめに成りました。 楽しみにしていた方々にお詫びします。
27/09/2019

緊急なおしらせ
9月29日開催の「日坂本陣あそびの広場」に出場予定していた「トランポリン」は諸般の事情により取りやめに成りました。
 楽しみにしていた方々にお詫びします。

街中トランポリン広場は天気に恵まれ無事終了することができました。たくさんの方々に参加していただき各ブースもにぎわい楽しい一日でした。来ていただいた方々 協賛していただいた企業さま  ありがとうございました!次は秋に開催予定です。
01/05/2019

街中トランポリン広場は天気に恵まれ無事終了することができました。
たくさんの方々に参加していただき各ブースもにぎわい楽しい一日でした。
来ていただいた方々 協賛していただいた企業さま ありがとうございました!
次は秋に開催予定です。

街中トランポリン広場  始まりました。天気にも恵まれました。掛川城三の丸広場へ遊びに来てください。あつくなることが予想されます。熱中症対策もお願いします。
28/04/2019

街中トランポリン広場 始まりました。
天気にも恵まれました。
掛川城三の丸広場へ遊びに来てください。
あつくなることが予想されます。
熱中症対策もお願いします。

4月28日(日)9~14:00 掛川城三の丸広場街中トランポリン広場トランポリン広場は今回で7回目になります。企画運営が慣れない中 手探りでやってきました。運営費もゼロからの出発でした。そんな中 かけがわNPO村の趣旨に賛同し 協賛していた...
26/04/2019

4月28日(日)9~14:00
 掛川城三の丸広場
街中トランポリン広場

トランポリン広場は今回で7回目になります。
企画運営が慣れない中 手探りでやってきました。
運営費もゼロからの出発でした。
そんな中 かけがわNPO村の趣旨に賛同し 協賛していただける企業さまのおかげで 今回もトランポリン広場が開催できます。
 ありがとうございます。

遠州損害保険事務所さま しばちゃんRanchMarketさま 
掛川一風堂さま かけがわ街づくり株式会社さま
美容室『らぽ』さま 株式会社おいもやさま
サンサンファームさま 道の駅掛川さま

住所

長谷一丁目1番地の 1
Kakegawa-shi, Shizuoka

電話番号

+81537245595

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